【翻刻】
大正大学図書館蔵『狭衣物語』巻一
1丁表〜2丁表
『源氏物語』桐壺巻の翻刻を終えて、今年度からは『狭衣物語』の翻刻を行います。いつもの『源氏物語』を読む会ではなく、新たに翻刻の会という時間を設け、活動日を分けることになりました。翻刻だけではなく、内容にも触れつつ感想等も共有していく予定です。
(感想)
今回は『新日本古典文学全集』と本文を比較しながら読んでいったのですが、情景描写が異なっていたり、源氏の宮にお仕えする女房の人数や動作の主体が異なっているなどの違いがありました。『狭衣物語』は写本によって本文異動が大きく、単語だけではなく文や話の展開が異なる場合もあるそうです。話の展開が定まらないのは不思議な感覚がありますが、比較することで本文の性格を知るのは面白く感じました。
大正大学本の一丁裏に「花こそはちの」と読める部分があったのですが、意味がうまく通らず苦戦したところでした。親本の細川幽斎の『狭衣物語』には「花こそはなの」とあり、写した人が迷った形なのか、「な」と書かれているのかは今後も検討していけたらと思います。すらすらとくずし字を読むのは難しく、字形を覚えられていない文字もあったので引き続き勉強していきたいです。
翻刻した内容は『狭衣物語』の冒頭部分でした。「少年の春はおしめどもとまらぬものなりければ、」と始まり、狭衣が源氏の宮に恋焦がれている様子が情景描写と共に語られています。この部分を読んで印象的だったのは、物語が急に語られるというところです。主人公の狭衣がどのような立場・どのような人間かということの説明なしに物語が始まるのは、他の作品にはない語り口で新鮮でした。また、狭衣が源氏の宮への気持ちを口に出せないということを心の中で和歌を読むことで表現している部分がありましたが、和歌を心の中で読むこと、そしてそれを語ることのできる語り手の立場など表現の方法が不思議な物語だと感じました。人物についてあまり語られない一方で、庭の青々とした緑や松・藤の様子など情景描写が丁寧で、風景が目に浮かびました。現段階ではほのぼのとした始まりで、少女漫画のようだという意見もありました。これからどのような展開になっていくのか、翻刻と共に読み進めていきたいです。
文責:髙野
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