【源氏物語を読む】
『新潮古典集成源氏物語』夕顔巻
p155.7行目「ややためらひて」~p157.1行目「御車寄す。」
前回は夕顔が息を引き取り、周りの人物が悲しみに暮れるシーンで終了しました。
今回は、奇怪なことが次々と起こった夜から朝へ時間が経過し、それぞれの現実へ戻りつつある一行の様子を読んでいきました。
緊張の糸がほぐれてあふれ出した涙をおさめた光源氏は、惟光と共に人目を忍ぶように夕顔の葬儀の手配をします。夕顔は頭中将の側室であったため、光源氏と関係を持っていたことが宮中に露見すると政治的な立場が危うくなってしまうからです。とはいえ誦経や願立てを依頼しようとするなど、その手配はとても丁寧なものでした。光源氏が夕顔に並々ならぬ情があったことが伝わってきます。
まったく具合の悪い様子のなかった夕顔の突然の死に、光源氏はまたほろりと涙を流しました。
そして惟光は、「もともといた五条の夕顔の宿は、女房が泣き惑っていて聞き耳を立てる町の人も多いし、どうしても評判になってしまうでしょうね。山の寺などであれば目立たず済ませることができましょう。わたしの父の乳母のいる東山に、夕顔の遺体を移しましょう。老いた尼が住んでいて、とても閑静でございますから。」と提案します。当時は東山に庵を結ぶ(=出家者が小さな家をかまえること)ことが多かったのです。
一行は町が明るくなるころの騒がしさに紛れて、車を西の対につけました。
この場面で印象的だったのは、夕顔の遺体をどうするかという場において惟光がこのように述べたところです。
「この院守などに聞かせむとは、いと便なかるべし。この人一人こそむつましくもあらめ、おのづからもの言ひ漏らしつべき眷属も立ちまじりたらむ。
(預りなどにそうだんするのはまずいでしょう。預り自身は内輪で信頼できるとしても、つい口をすべらしてしまう臣下もいるでしょう。)
惟光は、身内の臣下でさえ完璧に信用しきっているわけではありませんでした。いくら口を封じたとしても不注意で一連の出来事を誰かに話してしまう危険性を想定しているのです。
夕顔の死が露見すること、そしてその場に光源氏がいるとすると立場が危うくなることは先述したとおりですが、それ以外にもよからぬ噂が立つことは光源氏にとって決して良いこととは言えません。さらに死の穢れが留まる場所に長くいるのも、当時は避けるべきことでした。
このように、身内も信用することが難しい都の世界の厳しさや、悪い話が立たないように細やかに手配する惟光の忠誠心がよく読み取れる場面でした。
そのほかにも、非常に用例が少ない「みつはくむ」の語義・発音の考察について古田先生からお話を頂きました。
今回はここまでです。
夕顔の遺体の手配を決め、町が明るくなったところで車が到着しました。夕顔の死からいくばくか時間がたってもなお、光源氏はショックから立ち直れそうな様子はありません。二条の院へもどったのち、光源氏は何を思うのでしょうか。来週へ続きます。
文責:斉藤
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