2023年の活動

3月18日

【源氏物語を読む】

『新潮古典集成源氏物語』夕顔巻 

p.145,l.2「御車入れさせて、」〜p.145,l.13「ほかのことなし。」


前回に引き続いて、夕顔と某院で過ごす場面を読みました。屋敷を管理する人間があれこれと世話を焼く様子から女側は正体不明の男君の身分を悟る描写が描かれます。この院の管理人は、下家司として二条の院にも仕える身分の人間であったため、光源氏がそれよりも高い身分の高貴な人間であることがわかってしまったのでした。

室内を整えたり御粥を差し上げるなど、身の回りを整えますが、光源氏は夕顔に将来の約束をするのに夢中である様子が描かれていました。右近や光源氏がはなやいだ気分でいるのに対して、夕顔の描写はされず、当事者である女君が取り残されているような印象も受ける場面でした。


今回の場面では、「鳰鳥の息長川は絶えぬとも君に語らふこと尽きめやも」という引歌が用いられています。本文の注では典拠は『古今和歌六帖』、原歌は『万葉集』とされています。『源氏物語』では多くの引歌が用いられており、その多くが今回と同じく『古今和歌六帖』です。しかしながら、元となった歌はわかっているものの、その出典が未詳である歌も多くあります。『源氏物語』の古い注釈書に『源氏釈』や定家の『奥入』があります。これらには引歌の元となった歌が載っていますが、出典は掲載していないため、どの歌集からとったものなのかはわからないのです。もちろん現代には存在しない歌集であるという可能性もありますが、中には物語の本文に即した歌を作者たちが自分で作っているということも考えられます。現代は著作権への意識がとても強く、オリジナルを尊ぶ姿勢が一般的ですが、この考え自体は西洋からのもので、『源氏物語』が読まれていた当時は、面白くするために手を加えたり、創作するということは広く行われていたようです。これは引歌だけではなく、写本の違いにも言えることです。オリジナルを調査したいという観点からは困ったことでもありますが、現代でも同人誌を作る文化などがあるように当時の人々も自分なりのやり方で楽しんでいたことは面白いと感じました。


文責:髙野