2023年の活動

10月6日

【源氏物語を読む】
『新潮古典集成源氏物語』夕顔巻
p178,l.7
「伊予の介、神無月の」~p179,l.13「言いさがなき罪、さりどころなく。」
以下、今回の範囲のあらすじです。

 

 伊予の介は十月の初め頃に任地へ下ります。妻の空蝉とその女中も一緒に下向するので、光源氏は心を込めて贈り物を用意します。また私的にも贈り物をなさって、空蝉に櫛や扇、幣などを特別大げさにして用意しました。そして小袿を空蝉に返します。この小袿は光源氏が空蝉の寝床へ行った際、空蝉が逃げてしまった際に残された小袿です。光源氏はそれと共に「また逢うまでの形見とばかりに(この小袿を)見ていましたが、私の涙で袖はすっかり朽ちてしまったようです」という意の和歌をしたためた手紙を贈りました。

 光源氏からの贈り物を受け取った空蝉は、小袿に関してのみ返事を出しました。返しは「蝉の羽のような夏衣も裁ち更えて衣替えをしました。あの時の衣をお返しくださるのを見て、声を上げて泣いてしまいます」と詠みました。光源氏は不思議なほど並外れた意志の強さで離れていってしまったもの寂しく感じます。一日中空の景色を見て物思いに浸る光源氏は「過ぎた者も、今日別れる者もそれぞれ道は違うものの、どこへ行ってしまったか知れない秋の夕暮れだな」と歌を詠んでいます。

 最後は帚木巻冒頭の語り手の言葉と照応する形で締められます。「これらのことは光源氏がひた隠しにしていらっしゃいまして、全てを書くことはしなかったのですが、光源氏のことを天皇の御子だからといってなんでも褒めてばかりいて作り話のように受け取る人がいらしたのでお話したのです」と語り手が述べて、光源氏の青年期の恋話を記した帚木三帖は幕を閉じました。

 

 久しぶりの参加でしたので、先輩にこれまでのあらすじを簡単に説明していただいてから読み進めました。特に心に残ったところは「過ぎにしもけふ別るるも二道にゆくかた知らぬ秋の暮かな(過ぎた者も、今日別れる者もそれぞれ道は違うものの、どこへ行ってしまったか知れない秋の夕暮れだな)」という和歌です。帚木三帖に登場する最後の和歌に空蝉と夕顔を詠みこんでいるところに趣を感じました。雨夜の品定めで話を聞いて興味を持った女性二人に強く惹かれたものの、結果として一人は都から遠く離れた地へ去ってしまい、一人は物の怪に憑かれて亡くなってしまいました。私は、愛した人との別れや死別を若いうちに経験したことが後の光源氏の時に強引な迫り方に影響を与えているのかなと想像しました。また光源氏に衣を返されて深く悲しみつつも光源氏のもとから離れていく空蝉の心理や物語的役割をより深く知りたいと思いました。

 私は夕顔巻の途中から平安文学研究会に入り、一文一文を丁寧に読みながらここまで読み切ったので少しだけ達成感を感じました。入ったばかりのころは一段落分から読み取れる時代背景や宗教のルール、写本の知識などが非常に多くあったことに驚き、年齢関係なく自由な感想や疑問を発言することの楽しさを知りました。また、私が読み流してしまった箇所に目を止める人がいたり頭注の記載自体に疑問を持つ人がいたりしたので、自分が持っていなかった視点を人から学ぶこともできました。

 次はいよいよ光源氏と紫の上の出会いを描く若紫巻に入ります。幼い紫の上と光源氏がどのように書かれているのか楽しみです。

 

文責:斉藤