【翻刻】
大正大学蔵『源氏物語』桐壺巻
27丁裏~30丁表
【源氏物語を読む】
『新潮古典集成源氏物語』夕顔巻
p.140,l.6「八月十五夜、」~p.142,l.14「頼みかけきこえたり。」
2023年最初、春休み最初の活動でした。久しぶりに先生の解説や他の方の意見を聞きながら物語を読み進められて楽しかったです。今後もよろしくお願いいたします。
今回読んだところでは、物語が大きく進展するというよりも、光源氏から見た情景の描写が多かったです。
夕顔が今住んでいる家で、光源氏はこれまでの宮中での生活では触れなかったような環境で、聞き馴染みのない音を耳にする場面が続きます。身分の低い男たちが自身の生活を省みて騒ぐ声、何をしているのかは分からないけれど非常に煩く聞こえる碓(からうす)の音、微かに聞こえる衣を打つ砧(きぬた)の音、空を飛ぶ雁の声、けたたましい程に入り乱れた虫の声と、文章だけでも騒々しさが伝わってきます。しかし、そのような環境であっても、光源氏にとっては、呉竹や前栽の朝露はきらめいているし、煩い環境音もこれはこれで風変わりでおもしろいと思われるのです。これも夕顔への愛情故だろうといった中で、夕顔の描写に移ります。かわいらしくほっそりとして、もう少し気取りがあっても良いのではないかと思われるほどに無垢な様子の夕顔のことがただ愛おしく思われる源氏は、「この近くでゆったりと夜を明かそう」と誘いかけます。すんなりとついて行く素振りを見せない夕顔でしたが、車を引き入れさせる源氏の行動と、彼の思いが真剣であることを知っている女房たちによって、夕顔は源氏と共に過ごすこととなったのです。
全体を通して、光源氏から見た情景が描写されていることで、互いの身分差が強調されていました。また、家のそばが騒々しい事を恥ずかしく思いつつも表に出さない夕顔の様子を見て、光源氏は、外や家の様子を恥じる素振りがないのは気取りがなくて良いなぁと感じている場面も印象的でした。明らかに夕顔の内心と源氏の認識に齟齬が生じているのが面白かったです。個人的には、光源氏は惚れた女性の事を自分の都合の良い方向に美化するタイプの人なのかもしれない、と想像を膨らませて楽しんでいました。
また、虫の描写など、一見物語の本筋とは直接関係のなさそうな描写の捉え方についてのお話もでました。物語には誇張や虚構が内包されているということに留意した上で、作者がどんな効果を期待して描写をしているのかを考えながら読むと、主題を見失わなくなる、といった内容でした。理解が間違っていたら恥ずかしいことこの上ありませんが、面白く聞かせて頂きました。「物語」の「おしゃべり」的側面や、作者の認識の偏りは無視できないものであり、それも含めて楽しめたら最高だよねと思います。
最後に、「白妙の衣うつ砧の音も」という本文が話題に上がりました。「しろたへ」を「白妙(「衣」の枕詞)」と解釈するか、「白栲(栲の繊維→庶民の衣服)」と解釈するか、両方の意味を含ませるか。あてる漢字によって意味が変わるので、一冊の注釈書だけに囚われず、疑問を感じたら他の注釈書と見比べると良いのだそうです。個人的な感想としては、「しろたへ」と「衣」の組み合わせは百人一首の影響で馴染みがあり、勝手に「白妙(枕詞)」と解釈してしまっていたため、知名度による解釈の偏りもあるなぁと実感した次第です。注釈書や写本を見比べる意味はここにあるのかもしれません。
どんな字をあてることも出来るし、どこにでも句読点を打てるし、どんな風にでも濁点を付けられる、というのは、古典文学を学ぶ上で見落とせない特徴のひとつだと思います。今後も本文を読み進めたり翻刻をする過程で、こういった部分を(先生や先輩方の助言を得ながらにはなりますが)楽しめたら良いと思います。
以下余談です。翻刻の活動報告の際に丁数を記載していますが、数えるのが苦手なので間違っていたらこっそり指摘して頂きたいです。盛大にずれていることは無いと思いたいです。あと、研究会に入ってから1年が経過しました。季節が巡るのは早いですね。今は宙ぶらりんですが、無事進級できたら今後もブログで好きなように感想を書ければ良いなと思います。
文責:門井
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