【源氏物語を読む】
『新潮日本古典集成源次物語』若紫巻
p186.l2「近き所には」~p187.l5「と問ひたまふ。」
以下、あらすじです。
光源氏の浮かない様子を心配した供人は、都暮らしの主人の気を紛らわせようと各地の名所の美しさを語って聞かせます。その中でも良清という供人が「播磨の明石の浦こそ、なほことにはべれ。」と切り出します。
明石という地の浦には特筆する趣はないものの、不思議と他と似たようなところがないほどにゆったりとしたところだそうです。良清の話によると、そこには大層変わり者の入道がいるようです。入道は、大臣の子孫という優れた血筋を持ち、自身も播磨の国守も務めたという出世が約束されたような立派な人生を送っていました。しかし宮中の人と関わることを嫌い、突然近衛の中将の官職を捨てて出家してしまったそうです。その変わった行動は宮中の人々だけでなく明石に住む民にも奇妙と捉えられましたが、入道は構わず播磨の中でも海が見える明石の浦に盛大な邸を造らせて若い妻子と三人で暮らしているとのことでした。
元来出家者は世を捨てて俗世との関わりを絶ち、修行に励むという姿が一般的なのですが、明石に住む変わり者の入道の行動はそれとは真逆なものです。出家者の多くは山奥に質素な家を造って修行をするのですが、入道はそのような場所では妻子が心細く思うだろうからとして海の近くに広大な邸宅を造っています。このことから明石の入道の変わり者っぷりが伺えます。
変わり者だと思ったのは光源氏も同じようで、「さて、その娘は。」と良清に質問したところで今回の場面は終了です。
この範囲からは明石の入道がどれだけ変わっているかということが伺えました。
播磨の明石は都から離れた田舎の地であり、そこに国守として勤めるならまだしも、出家をして家までその地に造らせるという行為は子孫代々の出世を将来的に阻む行為だと捉えることもできます。また明石の入道が新たに就いた国司という官職も、それ以上の出世が見込めない受領階級であることも学びました。このような明石の入道の偏屈ぶりは自身の振る舞いにとどまらず娘(=明石の君)の可愛がりにも及んでいるところが面白いなと思います。その話は次回の範囲になるかと思います。
また、光源氏が療養に来た山の中で気晴らしのために海の話をしたり、光源氏が興味を持つような女性の話題に持ち込んだりと、光源氏のことをよく分かっている供人の話の上手さや気遣いにも注目する所がありました。特に明石の入道が出家した時の「近衛の中将」という官職が現在の光源氏の官職と同じものであることが特に面白かったです。供人が光源氏にとって興味を持ちやすい話題を選んだことが伺えました。
その他にはこの明石の浦の話が伏線として張られていることの重要性や「ゆほびかなる」という耳慣れない形容詞について萬葉集などの出典から意味を推測するなどしました。
次回は『源氏物語』の中でも有名な明石の君の伏線について語られます。
文責:斉藤
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