2022年の活動

12月9日

【源氏物語を読む】

『新潮古典集成源氏物語』夕顔巻 

p.131,l.12「秋にもなりぬ。」〜p.136,l.7「例の、もらしつ。」


 空蝉について語られた場面から一転して、光源氏が六条の女君のもとを訪れる場面に移ります。なかなか自分になびかなかった女君が受け入れた途端に「ひきかへしなのめならん」と光源氏の執着が薄れたことが描かれており、彼の性分が語られる場面でもありました。また、女君については細かな言及はされないものの、光源氏と年齢差のある人物であり、思い詰める性分であることなど、後に登場する六条御息所を暗示させる描写がみられました。女君のもとから帰る光源氏を女君の女房である中将の君が見送りに出た際、彼女の服装は「紫苑色のをりにあひたる、羅の裳あざやかに引き結ひたる腰つき、たをやかになまめきたり。」と描写されます。早朝であるのにも関わらず、きちんと正装している様子や、時節にふさわしい装束を纏うことができている様子が描かれており、女君の家柄の良さが窺えました。特に「羅」については、前の場面で惟光が夕顔の家の様子を伝えた際、女房達が「褶だつもの」をつけていたことが語られます。どちらも同じような役割を持っていますが、その格式には差があり、夕顔の家と女君の家が対比的に描かれている側面が見られました。光源氏は中将の君に対しても歌を読みかけますが、中将の君は歌意を上手く逸らして返歌します。この場面については本文中で「絵にかかまほしげなり」とあり、作者が絵にする箇所を指定しているような記述も見られました。この場面の終わりには、光源氏への賛美と、誰も彼も光源氏のそばに近づきたいと思っていることが改めて描写されます。しかしながら、光源氏にとって周りに人が集まることは当たり前のことであり、だからこそ自分になびかず、拒否した空蝉のことをいつまでも気にかけてしまうことがわかる箇所でもありました。

 次の場面では夕顔の家を調査していた惟光の報告が語られます。女房達の会話文が多く描写され、珍しい箇所でもありました。惟光の話からこの夕顔の家の主人は頭中将と関わりがあることが描写され、光源氏は夕顔の家の主人は雨夜の品定めで頭中将が話していた女のことではないかと推測します。しかしながら、そのことを知っているのは光源氏のみであり、登場人物それぞれの持っている情報の差を読者だけが知っているという面白さもありました。


文責:髙野