【源氏物語を読む】
『集成』P.71,L.7「中将、「なにがしは、・・・」」~P.75,L.1「とて、みな笑ひぬ」
(感想)
最近は男性たちによる理想の妻談義を読み進めています。今回の語り手は頭中将で、常夏の女についてのお話でした。
少し長くなってしまいましたが、「なにがしは、痴者の物語せむ」という前置きから始まるお話の内容は以下の通りです。※かなり意訳です。
「最初は長続きしないと思っていた愛人の女の元に通っていたら、だんだんと愛しくなってきて子どももできました。私があまり通っていなくても、女は大人しく我慢してくれたのです。後から聞くところによれば私の正妻からひどいことを言われていたようですが、当時の私はそんなことも知らずに会えずにいれば、女の方から撫子(=常夏)の花と和歌が贈られてきました。歌を交わしたところ、どうやら私のことを恨めしく思っているのを悟られたくないようでしたので、気楽に思って放っておいたら、突然行方をくらましてしまいました。もっとあちらが嫉妬深ければこんな事にはならずに、通い妻の1人として関係を続けたでありましょうに。子どもがかわいかったので探し出したいと思っていますが、まだ様子も分かりません。どうせこちらが忘れた頃になって向こう方に未練が湧いてきて悩むことになるでしょう。まったく、完璧な女はどこにいるのでしょうか。まぁ人間離れしているのもどうかと思いますがね。」
こういった雰囲気のお話で、最後には周囲の笑いを誘っています。読み進めて分かるように、これは頭中将の体験談です。
今回の体験談で特に印象的だったのは、和歌のやりとりによるすれ違いが起きていることです。頭中将は相手の歌を見て、楽観的に解釈していますが、女の歌にはしっかりと「せめて子どもだけでも構ってやってください」「私はひとりぼっちなのです」「もう飽きてしまったのですね」という訴えが、和歌の典型的な技法だけでなく『古今集』の知識も使って書かれています。しかし、頭中将はそれを読み取ることができませんでした。2人は、教養や読解力の差によって完全にすれ違ってしまったのです。当時、歌のやりとりをする上で勘違いが起きることはあり得た話だそうで、他の作品にもそういった場面を見ることができます。文章でのやりとりと言うだけでやや不安が残るのに、技巧を凝らした和歌でのやりとりともなれば、勘違いは避けられないのではないかと思いました。
また、平安時代の結婚に関することとして、法律上は一夫一妻制となっていたものの、実際には男性側が愛人を持つことで一夫多妻のような状態が続いていたそうです。これは、特に女性にとっては悩みの種で、嫉妬による嫌がらせなどが横行していました。嫌味の歌を贈るのは良い方で、家を破壊するに至ることもあったというお話を先生から聞きました。こわいですね。また、褒められたものではありませんが、男性にとっては、女性は代えがきくけれど自分の血を引いた子どもは大切だから、最悪子どもだけは残して欲しい、という価値観があったようです。男女の力関係に偏りがあることが分かります。
頭中将が非常に聡明で我慢強い女性を逃してしまったことについて、本人は「きっと後になってあちらが後悔するだろう」と言っていましたが、本当に引きずっているのはどちらなのかという話で盛り上がりました。こういった悲劇のヒロイン的体質の女性が必ずしも救われないという点も、『源氏物語』の特徴だと思います。
途中で注釈特有のネタバレを食らいました。正直びっくりしました。
文:門井
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