2022年の活動

11月11日

【源氏物語を読む】

『新潮古典文学集成源氏物語』夕顔巻

P128.L1「惟光、日頃ありて参れり。」~P131.L11「御心も動かずぞありける。」

 

 源氏が乳母のお見舞いに行った数日後の場面から読みました。

 乳母子の惟光は手紙を送るなどして、源氏に頼まれていた隣の家にいる女性について調べてみたところ、たいそう書き慣れた様子で素早く返事が返ってきて、悪くはなさそうな若い女房たちがいるということを伝えます。階級の低い家にも予想外の美しい人がいるものだと思った源氏は、正体を突き詰めるように追って指示しました。

 その後、空蝉との一件とその周辺のことに話が転じます。他の女性とは異なって冷たく源氏を突き放した空蝉は源氏の中にも色濃く残り、忘れがたく思っています。一方で、軒端の荻は夫が決まったようではあるけれど、自分への気持もまだ残っていそうなので安心、という風に思っていることが発覚しました。ただし、上京してきた空蝉の夫である伊予の介に対しては、彼の風格も後押しして少し後ろめたい気持が生じている様子が描写されています。

 

 源氏に隣の家について分かったことを報告する前に惟光が「(貴方が本来見舞いにきた乳母の)看病が大変だった」と少し嫌味っぽく前置きをしているところに、前回の場面に続いて2人の関係性が見えて面白かったです。また、調査の一環として隣の家の人の内でも源氏が狙っていない人に対して恋文を送ってみるという、相手からしたら「自分たちよりも上級階級の人と親しい人から恋文が来た」と勘違いしてしまいそうで若干迷惑なことになっているのが、少し気の毒ではありました。しかし、そうまでして調べてくれる惟光も、単なる忠義だけではなく、こういった状況が嫌いではない様子が窺えて、乳母子同士でお互いの好奇心を刺激し合っているようで微笑ましくも感じました。

 空蝉についての回想では、他の女性と同じように源氏に簡単になびく軒端の荻への想いよりも、そうでないばかりか自分と軒端の荻とのやりとりを聞いていたかもしれない空蝉への想いや執着心の方が勝っている様子が見え、源氏の叶わない恋に執着しがちであるという癖が垣間見えました。空蝉の弟の小君に再び彼女と会えないかと交渉までしていたようです。

 また、空蝉を巡った一連の出来事に帰ってきた伊予の介の様子が立派であることも重なって、源氏の滑稽さに拍車がかかっているのが面白かったです。この状況下で「湯桁はいくつ」とふざけたことを聞かないところが、源氏の最低限のモラルなのだろうと感じます。

 回想シーンを通して、源氏の女性に対する好奇心や恋の傾向、彼の滑稽譚に触れることができました。若い頃の源氏の内面が赤裸々に語られているという、この辺りの巻の特徴がわかりやすく出ていたと思います。

 

文責:門井